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東京地方裁判所 昭和42年(特わ)80号・昭42年(特わ)84号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕公表上減価償却の計上はない。

一、簿外資産につき減価償却を認容すべきか否かを検討するに、元来、事業の用に供せられる固定資産は、将来の収益に対応する費用たるの実質をもつものであるから、当該事業年度におけるその物理的、経済的消耗部分は、期間計算上費用として償却さるべき実質を有するものである。ただその消耗部分は期間毎に現実の支出を伴うものではないところの内部的取引に属するものであるから、法人税法においても、一定の固定資産につき減価償却を行なうか否かを法人の選択に委ね、確定決算においてこれを選択しない以上損金算入すべきではないものとしているのである。したがつて、簿外固定資産については、確定決算における減価償却は行なわれないから、法の形式面からすれば減価償却費の損金算入を許容すべきではない。しかしながら、本件各事業年度分に適用される昭和四〇年三月改正前の旧法人税法においては、法形式面においても新法人税法ほど厳格ではなく、確定決算上の会計処理が、償却費の計上という形式をふまず、固定資産に対する支出でその取得価額に含まれていないものについても、租税法令の要件にしたがつて計算された償却限度額の範囲内で償却費の損金算入を許容していた(旧法人税法施行細則六条)のである。この制度は「法人が……損金に計算したとき」を償却費許容の要件としているから公表されない簿外固定資産については当然にその適用があるものではないが、簿外固定資産は、前述したように期間計算の実質面から考察するならば、その消耗部分につき償却さるべき実質を有するものであるばかりでなく、法人が減価償却を公表計上しなかつたのは法人がそれを選択しなかつたからと速断すべきではなく、むしろ当該固定資産が公表されない結果償却費を計上する余地がなかつたことに由来するのであつて、逋脱所得の算定上適正な経理処理の面から一定の簿外資産を把握する以上、法人が同種公表資産については減価償却をなす等の事実が存し簿外資産についても正常な経理下においては減価償却の経理をなしたであろうと認められる事情が存する場合には、税務計算上前記規定を準用して減価償却を許容すべきであると解するのが相当である。而して右被告会社は公表の確定決算において前記簿外資産と同種のものにつき減価償却をなしており、前記簿外資産については正常な経理下にあつては同様に減価償却を選択したであろうと推認されるから、前述した趣旨に則り、旧法人税法所定の償却限度額内において右簿外固定資産の減価償却を認容すべきものである。

二、よつてまず右の各第三者名義による納税申告が租税法上許容されるか否かを検討する。所得税債権関係は、課税権者たる国と、課税物件たる所得の帰属する特定の納税義務者との間に成立するものであり、担税力に応じた公平な税負担の分配を意図する租税法の建前からいつても、課税権者は、当該所得の真の帰属者にのみ課税しかつ徴収すべく、納税義務者でない第三者から徴収することは許されない。ところで、納税手続において、納税義務者のなす申告は、抽象的に存在する当該租税債権を具体的租税債権として確定する効果が付与されているのであつて、この申告は納税義務者が自ら課税標準および税率の基礎となるべき要件事実を確認し、一定の要式にしたがつて租税債務の内容を確定した上租税行政庁に通知するのであつて、その手続は租税債権債務の内容を適正に確定せしめ、国の徴税権を確保するという目的に奉仕しなければならないのである。したがつて本件のように、所得の真の帰属関係をゆがめ、第三者名義を藉りて納税申告するなどという申告形態は法の予想しないところか、第三者名義自身の申告としてもそれが実体の反映でないとの意味において修正されなければならず(国税通則法二四条)、まして第三者名義による申告の法的効果が真の納税義務者に及ぶことがあり得ないのは、申告納税制度の目的、趣旨ならびに申告行為の法的性質からみて当然といわなければならない。

三、次に本件の右第三者名義による各申告が無効であるとしても、なお逋脱所得額ないし税額の算定上、これを有効なものと同視しあるいは該納付税額部分につき故意を欠くものとして除算すべきではないかとの疑があるのでこの点につきさらに検討を進める。なるほど本件における前記の第三者名義による申告分は、その第三者がいずれも実在人であつて、形式上は一応有効なものであり、その内容も被告人の意思と計算に基づいて作成されたものであることは前示認定のとおりである。しかしながら、右各店の各人名義による申告それ自体、内容が虚偽過少のものであるばかりか、かかる第三者名義による申告により、右店分の事業収入は被告人の総所得の対象外となり、該部分の所得が秘匿され、ひいては累進税率の適用を回避する結果となることは明らかである。さらに被告人が、かかる第三者名義の申告をなすに至つた動機、目的は被告人の検察官に対する昭和四二年二月一四日付供述調書によると、喫茶店「グノー」、パチンコ店「いこい」については、前経営者である廖学貞、沈木林からそれぞれこれを引き継いだもので、名義変更をすれば新たに風俗営業の許可があるまで一時休業しなければならなかつたこと、「グノー」については店舗の一部が借家であつたので名義変更をすれば高い権利金を払わなければならなかつたこと等の事情に由来するものがあつたことがうかがわれるにせよ、同時に、他人名義で分散して所得税の申告をすることによつて当該部分の所得を秘匿し、課税総所得に対する累進税率の適用を回避することにあつたことは明らかである。したがつて、本件における第三者名義による各所得税申告は、単に事業名義人が第三者であることからなされたばかりではなく、それ自体、租税回避の意図でなされた逋脱のための詐偽その他の不正行為ないしその準備手段であることが明らかである。かかる第三者名義による「納税申告」は、租税刑法上の観点からも、これを有効なものと同視する余地はなく、これを被告人の故意の点にしぼつて考察しても、被告人自身右各店舗分の所得については納税義務があることを知悉しながら、租税回避のため第三者名義による申告という逋脱の実行行為ないしその準備手段に訴えたこと、しかも右第三者名義による申告が不法のものであることを認識していたと認められるから、当該各税額部分についても逋脱の故意があるというに充分である。

四、検察官は、第一回公判期日において、被告栄進興業株式会社並びに被告人郭火盛に対する昭和四二年三月一三日起訴にかかる入場税法違反の各公訴事実のうち、被告会社につき、第一記載の映画館所沢東映における昭和三七年四月から昭和三九年一月まで(起訴状別紙一の1ないし22)、第二記載の映画館所沢中央劇場における昭和三七年四月から昭和三九年一月まで(同別紙二の1ないし22)並びに第三記載の映画館名画座における全部の各入場税逋脱の事実について、いずれも公訴時効が完成していることを理由として、口頭により起訴状訂正の申立をなし、公訴事実中右摘記部分の記載を削除することの許可を求めた。しかしながら、入場税逋脱の罪は、興行場等ごとにかつ各月ごとに一罪が成立するものと解すべきであるから、検察官の本件申立の趣旨は、同被告会社に関する限り当該部分の事件をすべて当裁判所における審判の対象から離脱せしめることに帰し、これは取りも直さず公訴の取消に外ならない。そして公訴の取消は、刑事訴訟規則一六八条により理由を記載した書面によつてこれをなすことを要し、しかもこの規定は、単なる訓示規定ではなく強行規定と解すべきであるから、たとえ検察官の過誤による公訴の提起であつたとしても、起訴状の訂正とか訴因の撤回というが如き形式を藉りることは許されないところ、本件においては、検察官は前示のとおり口頭による起訴状訂正の申立をなしたのみであり、同条所定の書面を提出していないのである。然らば検察官の右申立は不適法なものとして許されず、したがつて同被告会社に対する各公訴事実は、右申立の対象となつた摘記部分も含め引続き当裁判所に係属しているものといわざるを得ない。

そして同被告会社に対する本件各公訴事実のうち、さきに摘記した部分は、いずれも法定の納付期限から公訴提起までの間、すでに三年以上を経過しているのであり、かつ、いわゆる両罰規定によつて法人が処罰される場合の公訴時効は、行為者本人とは別個に法人に科せられるべき罰金刑を基準として期間の計算をしなければならず、これによれば右摘記の部分はいずれも公訴時効が完成していることが明らかであるから、この部分については刑事訴訟法三三七条四号により免訴の言渡をすべきものである。(近藤暁 小島建彦 鈴木悦郎)

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